フレンチコメディ映画のレジェンドこと喜劇俳優ルイ・ド・フュネス(Louis de Funès)をご存知でしょうか。
ルイ・ド・フュネスは約140本もの映画に出演し、20世紀後半のフランス映画史上最も有名かつ興行収入が高い俳優の一人です。
この記事では、そんなルイ・ド・フュネスが出演する超超人気シリーズの第1弾『大混戦(原題: Le Gendarme de Saint-Tropez)』をご紹介します。
フュネスの代表作『サントロペの憲兵シリーズ』は1964年の『大混戦』から1982年の『ルイ・ド・フュネスの大奪還(Le Gendarme et les Gendarmettes)まで、18年間に渡って全部で6作が製作され、そのうちのなんと4作がフランスで興行収入1位に輝いています。
こんにちは!『大混戦』と聞くと、「ドゥユ-ドゥユ-ドゥユ-サントロペ!」とついつい口ずさんでしまうカタクリです。
この記事では、映画のあらすじと、映画を面白く見るための3つのポイントについて一緒に見ていきましょう。
『サントロペの憲兵シリーズ』第1弾映画『大混戦』のあらすじ
イタリアの国境沿いに位置するオートザルプ県の小さな村で、人一倍きびきび働いていたルードヴィック・クルシュ(Ludovic Cruchot)は、その業績が称えられ出世を伴うサントロペへの派遣が決まります。
サントロペに到着するなり持ち前の「上司にへつらい部下に厳しい」を発揮するクルシュは、違法のヌーディストビーチの取り締まりに成功し大手柄を挙げました。
一方、クルシュの娘ニコル(Nicole)は、街で同年代のお金持ちの若者グループと知り合いになるのですが、服装をからかわれたニコルはついつい見栄を張り「父親が大金持ちで、港のバースに留めているクルーザーの持ち主である」と嘘をついてしまいます。
そんなある日、若者の一人がニコルを好きになり、なんとか彼女と2人きりになろうと、クルーザーの前に止めていた彼女の「父親」の高級車「赤いフォードのマスタング」を盗み出すことに。
それに気がついたニコルもマスタングに乗り込みますが、2人は口論になった挙句にタイヤを田舎道の溝にはめてしまい、自動車を動かなくしてしまいました。
ニコルから事情を聞いたクルシュは「自分の出世」を守るため、この事件を解決しようと動き出すのです。
『大混戦』を面白く見るための3つのポイント
普通に観ても十分面白い映画ですが、より映画『大混戦』を理解するために、知っておくべきポイントが3つあります。
フランス警察のシステム
フランス警察のシステムは日本と異なる点がいくつかありますが、そのうちの二つはフランスの生活で密着しています。
一つは日本の警察庁に近い「内務省」の管轄になっている警察官(police)で、主にパリなどの大都市のみに配置されています。
そして、もう一つは「内務省」と日本の防衛省に当たる「国防省」の二つの省が管轄を受け持つ国家憲兵隊(gendarme)です。
彼らの仕事は主に、パリであれば大統領や各省庁の警護、地方においては警察官(police)の役割を果たします。
本作はその地方で配置されている国家憲兵隊(gendarme)を面白おかしく描いています。
2009年以前は国家憲兵隊(gendarme)の管轄は「国防省」だけだったので、完全に「軍人」の扱いでした。
フュネス演じるクルシュが部下に対して兵士のようなトレーニンをさせ、しばしば「garde à vous!(気をつけ!)」と号令をかけるのは、「警察官」ではなく「軍人」を強調させるための演出になっています。
世界中のセレブが集まるサントロペ
今やハリウッドスター、そしてあのアマゾンの創立者ジェフ・ベゾスもバカンスに訪れるセレブが集まる高級リゾート地「サントロペ」。
「サントロペ」の名前の由来は、多神教時代の帝政ローマで将校でありながらキリスト教に改心してしまったトロペの名前からきています。
この改心が第5代皇帝ネロの逆鱗に触れ、首を切られてしまったペトロ。
彼の遺体を乗せた船がイタリアのピサから流され、たどり着いた海辺をトロペにちなんで「サントロペ」と名付けたと言われています。
元々静かで小さな田舎の港町だったサントロペが世界的に有名になったきっかけは、1958年に当時世界的スターだったフランス人女優ブリジッド・バルドー(Brigitte Bardot)が別荘を買ったことだと言われています。
ちなみに、『大混戦』のテーマソング「Douliou Douliou Saint-Tropez」の歌詞に「On peut marcher pieds nus à St Tropez(サントロペでは裸足で歩くこともできる)」と言うフレーズがありますが、これは「ブリジッド・バルドーが港の通りを裸足で歩いた」と言うエピソードから来ています。
主演キャスト:ルイ・ド・フュネスの魅力
『サントロペの憲兵シリーズ』の主演キャストは、フレンチコメディ映画を語るのに外すことのできない喜劇俳優ルイ・ド・フュネスです。
ルイ・ド・フュネスは、60年代から亡くなる80年代前半まで、フランス、そしてドイツやイタリアなどヨーロッパで絶大的な人気を誇りました。
元々スペイン系移民の子として生まれたフュネスは、仕事を転々としながらピアニストとしてバーでの演奏などをしていましたが、20代後半で喜劇役者に転向し、40歳近くで舞台を中心に有名になった後、50歳の時に出演した本作『大混戦』で不動の人気を得ることになります。
彼が演じるキャラクターは一貫して、「大げさなジェスチャーをしながら大声で話し、上司にへつらい部下に厳しく、自分の利益を第一に考えるエゴイスト」というどこにでもいそうな典型的なフランス人を小憎らしく演じています。
それだけであれば「すごく嫌な奴」で終わってしまうのですが、フュネスの凄いところは、そこに彼の「小柄」を強調し「擬音で感情や状況を表現する」ということで、「すごく嫌な奴」を「なんとも滑稽で憎みきれないキャラクター」に変身させてしまうことでした。
映画『大混戦』では実際の憲兵隊署を使って撮影しましたが、建物修復工事を経て2016年からは、映画関連の品々が展示されている「サントロペの憲兵と映画の博物館」として多くの観光客が訪れる有名スポットになっています。
まとめ
フランス人で知らない人はいない映画『大混戦』をご紹介しました。
喜劇俳優ルイ・ド・フュネスの大出世作である本作は、その成功によりシリーズ化され約18年間に渡って全6作が製作されました。
フランス語は比較的聞き取りやすくストーリーも理解しやすいので、フランス語字幕で挑戦してみてください。
主演キャストのフュネスは遅咲きでしたが、生涯に100本以上のコメディ映画に出演し、彼の作品は2021年になったいまでも定期的にテレビや映画館で上映され、今もなおフランス人を大いに笑わせています。
フランス人だけでなくヨーロッパ人が愛したフランスのエスプリ満載の映画『大混戦』を是非ご覧ください。

フランス・パリ在住の、気分は二十歳の双子座。
趣味はヨーロッパ圏内を愛犬と散歩することと、カフェテラスでのイケメンウォッチング。
パリ市内の美術館ではルーブル美術館、オルセー美術館とポンピドーセンターがお気に入り!
好きな映画は70代80年代のフレンチ・コメディ。
オススメや好きな作品は詳しいプロフィールで紹介しています。