『暗黒街のふたり』をアラン・ドロンが大絶賛!映画のあらすじとフランスにおける死刑制度の歴史

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正義で人を裁く「裁判」自体が、全てでっち上げだったら…

この記事では、元死刑囚のジョゼ・ジョバンニ(José Giovanni)監督が司法制度や警察を厳しく批判した映画『暗黒街のふたり(原題:Deux Hommes dans la ville)』をご紹介します。

主演キャストのアラン・ドロン(Alain Delon)自身「自分が出演した映画で、最も素晴らしい作品の一つだ」とイチオシする、映画『暗黒街のふたり』

伊仏合作映画の本作が劇場公開された1973年は、フランスで死刑制度に対する見直しが国民の間で大きく高まっていた頃でした。

こんにちは!フランス革命時に発明された「ギロチン」が、死刑制度廃止の1981年まで実際に使用されていた事に驚きを隠せないカタクリです。

「映画のあらすじ」「フランス世論を動かした映画のテーマ」を通して、フランスが死刑制度を廃止した流れを見ていきましょう。

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元死刑囚の監督が投げかける問題作、映画『暗黒街のふたり』のあらすじ

保護司として刑務所で受刑者の社会復帰を助ける元警察官ジェルマン(Germain)は、銀行強盗の罪で服役しているジーノ(Gino)と出会います。

自分の犯した罪を反省し真面目に仕事に取り組むジーノの姿に、ジェルマンも心を動かされ二人は徐々に信頼関係を築いて行きました。

ジェルマンの協力もあり刑期より2年早く釈放されたジーノは、彼を10年間待ち続けていた妻のソフィー(Sophie)と再会を果たし、新しい人生を歩むことを決意。

ジェルマンとジーノの絆はさらに強くなり、お互いに家族ぐるみで交流をするようになります。

ジーノがようやく社会復帰の兆しが見えた時、彼の運転していた車にトラックが激突し、妻のソフィーは帰らぬ人となってしまったのです。

悲しみに暮れるジーノですが、ジェルマンの暖かいサポートおかげで、南仏モンベルモンペリエの印刷工場会社に就職が決まります。

工場主からの信頼も得るようになり、そして新しい恋人もでき、何もかもうまくいっているように思った矢先、過去にジーノを逮捕したゴワトロー警部(Goitreau)に「あいつは必ず再び犯罪に手を染めるに違いない」と目をつけられ、執拗に監視されるように。

そんな時、ジーノは昔の銀行強盗仲間と街で再会してしまって……

フランス世論を動かした映画のテーマ

フランスの名優ジャン・ギャバン(Jean Gabin)アラン・ドロンの共演で大変話題となった映画『暗黒街のふたり』。

しかし、今も尚フランス映画史の傑作の一つと言われる本作品には、豪華な俳優陣だけでなく、「映画のテーマ」も大きく関わっています。

ジョゼ・ジョバンニ監督は元死刑囚って本当!?

この物語はなんと、ジョバンニ監督の実経験が元になって制作されました。

第二次世界大戦時、ナチスドイツ軍に占領されていたフランス。

戦後の1946年、元々素行の良くなかったジョバンニ監督は、ナチス協力行為の罪で訴えられます。

その2年後に3人の殺人容疑と恐喝の罪で起訴されてしまい、なんと死刑判決を受けることに。

度重なる裁判で死刑判決は取り消せましたが、強制労働収容所に送られ、1956年、当時のフランス大統領ルネ・コティ(René Coty)の恩赦により10年間の刑務所生活から解放。

その年に自分の体験をもとに小説家としてデビューし、映画の脚本家を経て映画監督になります。

ジョバンニ監督は2004年に他界するまで「警察は人間を、犯罪をしなければいけない状況に追い込み、無理やり罪を探し出し、終いには罪を作り出するのです」と、司法制度の矛盾を訴えかけていました。

フランスの死刑廃止までの歴史的背景

フランスでは、フランス革命時に発明された「ギロチン」の登場により、それまでの多様な死刑執行方法が「ギロチン」で統一されました。

第二次世界大戦中に反ナチスであったレジスタンスに対する死刑執行をピークに、死刑判決は減っていき、戦後の1969年から1974年のポンピドー(Pompidou)大統領政権には死刑囚は二人に、そして最後の死刑執行はジスカールデスタン(Giscard d'Estaing)大統領政権時代の1977年でした。

70年代後半、フランスを除く西ヨーロッパ諸国ではすでに死刑制度が廃止されており、ジョバンニ監督を含む多くの左翼知識人を中心に「廃止制度」の声が高まる中、大統領選挙で「死刑反対」を訴えた社会党のミッテラン(Mitterrand)大統領が当選したことにより、1981年に死刑は廃止となったのです。

2006年のシラク(Chirac)大統領が憲法を改正し、翌年には国会で憲法修正案が可決。

この事で、事実上「死刑制度復活」は不可能となりましたが、テロ行為による治安悪化などで、2020年9月14日付のフランス紙『Le Parisien』によれば、国民の55%が「死刑制度復活」を希望しているという世論調査の結果が出ています(参考:Le Parisien)。

まとめ

ナチス協力行為の罪で訴えられた後、警察のでっち上げによって死刑判決を受けた過去のあるジョバンニ監督の作品『暗黒街のふたり』は、西ヨーロッパ諸国で次々と死刑廃止が実行される中、フランスの世論を大きく動かすきっかけになった作品です。

本作の脚本を読んだアラン・ドロンは制作側にも携わり、「自身が出演した映画で、最も素晴らしい作品の一つ」と言っています。

主演のジャン・ギャバンとアラン・ドロンが注目されがちですが、憎らしいゴワトロー警部を見事に演じたミシェル・ブケ(Michel Bouquet)は、セザール主演男優賞を2度受賞、そしてモリエール賞も7回ノミネートされている実力俳優で、2021年現在でも映画と舞台で活躍されている名俳優の一人です。

後半の裁判、そして死刑執行前のシーンは静かながら人間の精神描写を丁寧に描かれており、見るものの心に残るフランス映画史に残る名シーンと言っても過言ではありません

内容は少し重いですが、全体的にフランス語は聞き取りやすいので、中級から上級のフランス語学習者には字幕なしで鑑賞して頂きたい一作です。

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