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「女性の性欲」というデリケートなテーマを、ポスト・ヌーヴェルヴァーグの巨匠フィリップ・ガレル(Philippe Garrel)が詩的にかつ大胆に描いた名作!
この記事では、2017年のカンヌ国際映画祭でのプレミアム上映作品、映画『つかのまの愛人(原題:L'Amant d'un jour)』をご紹介します。
さて、インテリが見る退屈な映画と見られがちなガレル監督の作品を、映画『つかのまの愛人』の「あらすじ」、そして「ポスト・ヌーヴェルヴァーグについて」を一緒に見ながら、彼の作品を楽しめるようになっちゃいましょう。
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いまだタブー視される「女性の性欲」を描いた映画『つかのまの愛人』のあらすじ
23歳の大学生アリアンヌ(Ariane)は、哲学の教授ジル(Gilles)への数ヶ月のアタックの末付き合うようになり、同棲をし始めて三ヶ月経っていました。
ところがある夜、ジルの娘でアリアンヌと同い年のジャンヌ(Jeanne)が、同棲相手のマテオ(Matéo)と上手くいかなくなり、父親を頼ってアパートにやってきます。
マテオとの関係が破綻したことによるショックで憔悴しきったジャンヌをジルが受け入れたことから、三人の奇妙な共同生活が始まることに。
アリアンヌとジルは、時々時間を見つけては校内の教師専用お手洗いで逢引をすることもありましたが、二人の関係を知る者は大学にはいませんでした。
何もかもうまくいっているように見える二人でしたが、アリアンヌの心には「いつか、自分は彼の元を離れるだろう」という思いが、漠然と浮かぶようになります。
いつものようにアリアンヌが帰宅をすると、窓から飛び降りようとしていたジャンヌに遭遇。
なんとか自殺を阻止したアリアンヌは、ジャンヌがマテオのことを忘れられずに苦しんでいることを知り、色々な男の人と出会えるダンスパーティーに誘うことにしました。
「自殺未遂をジルに話さない」と約束をする二人の間に、徐々に秘密を共有する「同志」のような気持ちが芽生え始めるのです。
「平穏」に過ごしていたように見えていたある日、街角の雑誌売り場でアリアンヌがヌードで表紙になっている雑誌をジャンヌが発見してしまい……
ポスト・ヌーヴェルヴァーグについて
フロイドの「女性の無意識の性欲」がテーマになっている映画『つかのまの愛人』は、2017年の作品にも関わらず、モノクロの映像や登場人物の服装、そして昔から変わることがないパリの風景に、観客はまるで70年代の映画を観ているような錯覚に陥ります。
ここでは本編をより理解するために、ガレル監督がこだわる「ポスト・ヌーヴェルヴァーグ」を一緒に見ていきましょう。
まずはヌーヴェルヴァーグを理解する
ポスト・ヌーヴェルヴァーグを語る前に、まずはヌーヴェルヴァーグに触れておきましょう。
ヌーヴェルヴァーグという言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。
ヌーヴェルヴァーグとは、1950年代から始まり約10年間続いたフランス映画における一大ムーブメントです。
若い映画人たちが、それまでの映画制作の常識を覆したこのムーブメントは、発表後、すぐに世界中に広まります。
2021年現在でも、フランスで高く評価されている大島渚監督や今村昌平監督などは、このムーブメントに触発され「日本ヌーヴェルヴァーグ」という運動を作り、日本映画に新しい風を吹かせました。
ヌーヴェルヴァーグ映画の「傾向」
作家により手法が大きく異なるため、一言で説明しにくい「ヌーヴェルヴァーグ映画」ですが、大まかな「傾向」をご紹介します。
- 作品の内容よりも脚本家や監督の個性に重点を置く
- 心理描写を台詞ではなく、登場人物の表情で見せる
- 脚本家や監督の経験に基づく話
- 低予算で撮るため、それまでスタジオを借りて行われていた撮影を行わず、外でのロケ撮影
- ロケ撮影のため、雑音が録音されてしまうが、そのまま消さないで起こして置くことが多い
- 役者の即興的芝居を容認しドキュメンタリーに近い形にする
代表的な脚本家や監督は「ザ・ヌーヴェルヴァーグ」のジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)、日本でもファンが多いフランソワ・トリュフォー(François Truffaut)、ミュージカル映画で馴染みのジャック・ドゥミ(Jacques Demy)、そしてドゥミの妻であり、ヌーヴェルヴァーグ唯一の女性監督アニエス・ヴェルダ(Agnès Varda)などです。
そしてポスト・ヌーヴェルヴァーグ
字の如くヌーヴェルヴァーグの流れを引き継ぐムーブメントですが、ヌーベルヴァーグよりもさらに手法が細分化されているため、定義がほぼ無いと言っても過言ではないでしょう。
ただし、画期的な手法がたくさん取り入れられたヌーベルヴァーグと異なり、実験的な撮影方法が比較的安定していったことにより、より「物語に焦点が置かれている」と見ることができます。
映画『つかのまの愛人』でメガホンをとったガレルは、ポスト・ヌーヴェルヴァーグの第一任者の一人と言われており、彼の作品にはヌーヴェルヴァーグへのオマージュも多分に盛り込まれているため、一連の流れを知ってから彼の作品を見ると、よりわかりやすくなるでしょう
アメリカ映画の影響を強く受けている作品が主流の2000年以降のフランス映画界において、「フランス映画らしいフランス映画」を撮り続ける数少ない映画監督の一人と言えるのではないでしょうか。
まとめ
アリアンヌが授業の終わりに、階段を駆け上がり人気のない廊下に入っていき、中年の哲学教授ジルがその後追っていき、教師用のトイレの鍵を開けて二人でそっと入って行く……
ショッキングなシーンで始まるオープニングから、淡々とそしてシンプルでありながら、意外な方向へ進む男女関係を見事に描いた映画『つかのまの愛人』は、まさにガレル監督の最高傑作の一つといっても過言ではない名作です。
本編が76分と非常に短いながらも、物語の中で3人の登場人物の人生観や心の動きを見事にみせているくれるプロットは、彼のキャリアのなせる技かもしれません。
登場人物はスピード、語彙共にとてもナチュラルなフランス語を使っており、セリフを話しているというよりは普通に話している感じなので、これを聞きこなせるようになれば上級者です!
1968年の五月革命から70年代から80年代のニューヨークのポップアートなど、常に最先端のアートシーンの第一線で活躍してきたガレル監督について詳しく知りたい方は、是非ウィキペディア(仏版)をご覧ください。
おまけ
2017年のカンヌ国際映画祭の会場でのガレル監督のインタビューです。
映画『つかのまの愛人』のテーマについて語っています。
フランス語の学習を兼ねて、是非ご覧ください!
フランス・パリ在住の、気分は二十歳の双子座。
趣味はヨーロッパ圏内を愛犬と散歩することと、カフェテラスでのイケメンウォッチング。
パリ市内の美術館ではルーブル美術館、オルセー美術館とポンピドーセンターがお気に入り!
好きな映画は70代80年代のフレンチ・コメディ。
オススメや好きな作品は詳しいプロフィールで紹介しています。