フランス映画『BPM ビート・パー・ミニット』のあらすじと感想

今回は、2017年にフランスで最も話題になった映画、『BPM ビート・パー・ミニット120 battements par minute)』をご紹介します。

翌年の2018年には、セザール賞を6部門(作品賞、音楽賞、有望男優賞、助演男優賞、オリジナル脚本賞、編集賞)受賞した本作は、実際にあったエピソードを織り交ぜながら、偏見や病気と闘った若者たちの姿をリアルに描き評判になりました。

映画『BPM ビート・パー・ミニット』あらすじ

90年代初頭のパリ。

HIVが発見されてから既に10年経っていましたが、政府や薬品会社は具体的な対策を打ち出さないまま、若者の間でエイズによる死者が増え続ける一方でした。

そんな中、HIV感染者に対する偏見や差別と戦う為に設立されたアソシエーション、アクト・アップ・パリ(ACT up Paris)は、この状況を打破するため、週に1度「RH(réunions hebdomadaires)」と呼ばれる集会を開いていました。

この集会では、色々な理由でHIVに感染してしまった人とその家族などが、自由に自分の体験や考えを発言し、一緒に問題を考え、話し合うことができました。

ナタン(Nathan)が初めて「RH」に参加した時、アクト・アップ・パリの創立者であるHIVウィルス感染者のチボー(Thibault)と積極的に意見を交わす、同じく感染者のショーン(Sean)に出会います。

デモだけでは埒があかないと考えるショーンは、メンバーと共にゲリラ的に製薬会社に忍び込み抗議をしたり、授業中の高校に無断で入り避妊に関する授業行ったりと過激な行動を行っていました。

そして、行動を共にする中、ショーンとナタンは恋に落ちていきます。

他のメンバーの反感を物ともせず過激な発言をするショーンですが、ついに体調が悪化し入院してしまいます。

死の恐怖と病気に苦しむショーンの姿を見て、ナタンはある決断をするのです。

限りなくドキュメンタリーに近いフィクション

アクト・アップ・パリは1989年に作られた実際のアソシエーションで、現在も活動しています。

短くも精一杯生きたショーンのモデルとなったのが、90年代にアクト・アップ・パリのアイコン的な存在だったクルーズ・ヴェレ(Cleews Vellay)です。

彼は同アソシエーションで1992年から1994年まで代表を務め、コンコルド広場やパリのノートルダム大聖堂、そして連対・保健省前での過激なデモ運動を行いました。

1994年8月にエイズにより30歳の若さで亡くなっています。

ヴェレの火葬後は遺言に従い、アクト・アップ・パリのメンバーが保険会社のユニオン・デ・アシュランス・デ・パリ(Union des assurances de Paris)や製薬会社などに彼の遺灰を撒き散らしました。

2019年にパリ10区、レピュブリック広場(Place de République)近くにあるルネ・ブーランジェ通り(rue René Boulanger)とサン・マルタン大通り(boulevard Saint-Martin)の間にある歩行者専用通りを、彼の活動を讃え「プロムナード・クルーズ・ヴェレ(Promenade Cleews Vellay)」と名付けられたのは記憶に新しいところです。

劇中、ショーンと激しく対立するチボーのモデルは、アクト・アップ・パリ創立者であり、フランスのLGBT雑誌「テチュ(Têtu)」の創刊に携わったジャーナリストのディディエ・レストラッド(Didier Lestrade)です。

この映画の監督ロバン・カンピヨ(Robin Campillo)も、自らのホモセクシャリティーをカミングアウトしており、実際にメンバーとしてアクト・アップ・パリに参加していました。

自分の経験を踏まえ、出来るだけリアリティーを出すために、出来上がったシナリオをレストラッドに見せアドバイスをもらったそうです。

また、ナタンを演じたアルノー・ヴァロワ(Arnaud Valois)、そしてソフィー(Sophie)を演じたアデル・エネル(Adèle Haenel)は自分たちが同性愛者だということをカミングアウトしており、LGBTへの偏見をなくすため、積極的にテレビや雑誌のインタビューに答えています。

フランス人が最も大切にする「言論の自由」

カンピヨ監督に特に力を入れたのは、劇中何度も出てくる「RH」のシーンだったそうです。

あえて間延びするギリギリまで長い時間を取ったことにより、フランス人のリアルなディスカッションを見ることができます。

時には激しく論議したり、また時には冗談を言いながら笑いあったりする姿は、まるでドキュメンタリーのようです。

どんな立場であっても自分の意見を言い、違う意見でもあっても相手の意見を聞くと言う、まさにフランス人がもっとも大切とする「言論の自由」がそこにあります。

『BPM ビート・パー・ミニット』の印象的なフレーズ

入院したショーンが、お見舞いに来たナタンに目を潤ませて言う一言を見てみましょう。

Sean :Je suis désolé que ça soit tombé sur toi.
(ごめん、君をこんな事に巻き込んでしまって)

出典:映画『BPM ビート・パー・ミニット』

「être tombé(e) sur 〜」とは、「〜をたまたま襲ってきた、〜に偶然出会った」など、予期しない事が訪れた時には使うフレーズです。

それまで元気に活動し、他の男性と付き合っていたショーンですが、ナタンと出会って間も無く体調が悪化してしまいます。

一緒に住むことを提案したり、これから二人で生きていくための事を考えながら一生懸命に看病してくれるナタンに、ショーンは申し訳ないと思う、そんな切ない気持ちが表されている言葉で、「『BPM ビート・パー・ミニット』内で心に残るセリフ」と言うアンケートで一位になっています。

主人公、ナウエル・ペレス・ビスカヤール

主人公のショーンを演じ、圧倒的な存在感を見せたナウエル・ペレス・ビスカヤール(Nahuel Pérez Biscayart)は、この作品で、見事にセザール賞の有望男優賞を受賞しました。

彼はブエノスディアス出身のアルゼンチンの俳優です。

本国アルゼンチン、そしてアメリカでキャリアを積んだ後、現在はフランス、ドイツ、ベルギー、スイスなどで主に活躍しています。

2010年に初めてフランスに来た当初は、なんとフランス語が全く話せなかったそうです。

フランスで仕事をするために、ソルボンヌ大学付属フランス文明講座の短期コース(週25時間の3ヶ月コース)に通いました。

フランス語の発音矯正もきっちり受け、現在ではネイティヴレベルのフランス語を話しています。

まとめ

劇中でのディスカッションシーンは、監督が力を入れただけあり、とてもリアルに生き生きと描かれています。

激しく意見を交わしていたと思えば、突然冗談などを言ったり、テーマが次の活動のこと思えば、話が反れて日常会話になったりと、まさしく討論をするフランス人の姿がそこにあります。

このシーンを映画館で見た時、私はパリの大学生時代に参加した、学生による講義のストライキに関わるディスカッションを思い出し、とても懐かしさを感じました。

1999年に同性異性に関わらず、未婚のカップルであっても夫婦とほぼ同じ権利とみなされる「パックス(連帯市民契約)」、そして2013年に制定された「みんなのための結婚(Mariage pour tous)」の制定は、アクト・アップ・パリの活動が多大な影響を及ぼしていると言っても過言ではないでしょう。

この映画はLGBT問題だけに関わらず、政治や社会、会社に対する抗議をするフランス人がとてもリアルに映し出されている作品です。

言葉を学ぶ上で、言語だけでなく背景にある国民性や文化に触れる事はとても大切です。

フランス人、そしてフランスという国をより深く知るためにも、見る価値のある映画です。

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