フランス映画『猫が行方不明』のあらすじとフランスの下町の魅力

今やフランスで大人気の若手映画監督、セドリック・クラピッシュ(Cédric Klapisch)が1996年に発表した長編映画『猫が行方不明Chacun cherche son chat)』をご紹介します。

小規模上映でありながら、主演のギャランス・クラヴェル(Garance Clavel)がセザール賞の有望若手女優賞にノミネートされた他、ベルリン国際映画祭国際批評家協会賞を受賞するなど、この規模の映画の中では国内外で大ヒットした作品です。

下町のパリを描いた映画「猫が行方不明」のあらすじ

下っ端メークアップアーティストのクロエ(Chloé)は、やっと取れた一週間のバカンスに出かけるために、愛猫のグリグリを預かってくれる人を探していました。

ルームメイトのミシェル(Michel)にも、アパートの管理人さんにも断られて困っていたときに、近所に住む猫好きのマダム・ルネ(Madame Renné)の噂を聞きます。

早速彼女の元を訪ねると、快く預かってもらえることになりました。

1週間経ちバカンスから戻ると「あなたの猫が行方不明になった」とマダム・ルネに言われます。

途方にくれたクロエはミシェル、クロエに密かな恋心を抱くジャメル(Djamel)、そしてマダム・ルネと彼女のご近所さんネットワークの手を借り、行方不明のグリグリ探しが始まります。

この「事件」をきっかけに、パリで孤独に暮らしていたクロエは、今まで通り過ぎるだけだった同じ地区の住人との間に交流が生まれてきます。

そして、2週間近く経った後、グリグリは意外なところで発見されるのです。

変わりつつある下町「バスティーユ(Bastille)」

1990年代初頭から始まった都市開発計画により、パリの至る所で建物の取り壊しが行われました。

この映画の舞台になったパリ11区の「バスティーユ地区」も例外ではありません。

かつては昔から住む地元パリジャンに愛されたバスティーユが、2000年頃から次々にお金持ちが移り住むようになり、今やボボ(BOBO:Bourgeois bohemianの略。ファッションやIT、金融関係の仕事をしているニューリッチ層の人を表す言葉)が住む地区になっています。

主人公のクロエがマダム・ルネと猫探しをしている時に、古着屋さんでファッション雑誌の撮影現場の責任者だった女性(典型的なBOBO)と再会するシーンがあります。

その際に女性はマダム・ルネとその友達を見るなり、「あの老人見てよ、なんか田舎者みたいね」バカにしたように笑いながら言います。

都市開発の工事で立ち退きの危機にある昔からの地元住民と、新築アパートに引っ越しをしてきたお金持ちの新しい住人の関係を表す心象的なシーンとして描かれています。

本編には古い建物が解体されているシーンが数々映っていますが、新しくなるパリへの期待と古き良き時代のパリが消えてしまう寂しさ、そのような複雑な気持ちをクラピッシュ監督は表したかったのかもしれません。

今も訪ねる事ができる映画のカフェやバー

この映画が上映された1996年とはすっかり形を変えてしまったバスティーユ地区ですが、物語の中に登場する地元住民が集まっていたカフェ、ル・ポーズ・カフェ(le Pause Café:41 rue de Charonne 75011 Paris)と、クロエが出会いを求めて通ったバー、ロントル・ポット(L'Entre Potes:14 rue de Charonne 75011 Paris)は現在も営業中です。

『猫が行方不明』時代の面影が残る数少ない場所なので、パリジャンやパリジェンヌにも大変人気のあるお店です。

タイトルの「猫」に隠されたメッセージ

『猫が行方不明』の原題は『Chacun cherche son chat』。

直訳すると「それぞれの人が自分の猫を探している」となります。

この映画で「猫」と言えば、行方不明になってしまうクロエの愛猫「グリグリ」。

グリグリ(grigri)とはフランス語で「幸運を引き寄せる物」という意味です。

愛猫が行方不明になったことで、孤独だったクロエが紆余曲折を経ながら、今まで遠くにあると思っていた幸せが実はすぐ近くにあったことに気づくことができました。

まさに猫の「グリグリ」が幸運を引き寄せてくれたのです。

この騒動を通して他の登場人物も、出会いや別れを繰り返して「自分たちの何か」を見つけていきます。

タイトルの「son chat」を、「グリグリ」と置き換える事により、「それぞれの人が自分の大切なものを探している」という、この映画の主題が浮き彫りになります。

意味を知ってから本編をみると、「グリグリ」に関する登場人物のやりとりや、行動などがより理解しやすくなります。

まとめ

他のクラピッシュ作品同様、日常生活の中で沢山の魅力的な登場人物がそれぞれの日常生活を過ごしながら、ちょっとした事がきっかけで繋がっていくというストーリー展開になっており、そこがこの映画のリアルさになっています。

通常ブレスレットやキーホルダー、イヤリングなどの小物を「グリグリ」として、フランス人女性は好んで持っていますが、不吉なことをもたらすと言われる黒猫の「グリグリ」が幸運を引き寄せる鍵になっているところが、ちょっとしたユーモアになっています。

個人的には、仕事も恋もうまく行かない主人公クロエを、スッピンで演じているギャランス・クラヴェルにとても魅力を感じました。

古いものから新しいものに移りゆくパリの姿を、上手に描き出している映画『猫が行方不明』。

パリに行きたいと思わせてくれる素敵な映画です。

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