※当ブログにはプロモーションを含みますが、記事内容は公平さを心がけています。
みなさん、こんにちは!パリの某大学に留学中、2回留年するほどマルグリット・デュラス(Marguerite Duras)の作品を読み漁っていたカタクリです。
そんなわたしが今回ご紹介する映画は、デュラス脚本、1959年に公開された日仏共同作品映画『二十四時間の情事(原題:Hiroshima mon amour)』です。
2014年に惜しまれつつ他界してしまったフランス映画の巨匠、アラン・レネ(Alain Resnais)監督の長編映画デビュー作であり、フランスでは今なお定期的に映画館で再上映される監督の代表作でもあります。
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フランス映画『二十四時間の情事』のあらすじ
被爆から約10年後の広島を舞台に「平和を訴える映画」の撮影のために来日したフランス人女優。
女は出会った建築家の日本人男性と一夜を共にながら、被爆資料館で見た写真や資料の痛ましさを語ります。
そんな女の話を聴きながら、男は「君は広島で何も見ていない」と言う言葉放ちます。
女は何度も「広島で何が起こったのか見た」と言い続けますが、男は一向に認めません。
しばらくして明け方になり、映画の撮影現場に向かう準備をしながら「翌日パリに戻る」と言い残し、女は男を置いて部屋を出て行きました。
女を忘れることができない男は、仕事を休んで撮影現場訪ねます。
女は驚きましたが、撮影が終わり男に誘われるまま彼の自宅に行き、また身体を合わせ、そしてお互いのことを少しずつ話し始めます。
男には妻がいて子どももいること、女にもパリに夫がいること、そして戦争により家族全員を失ってしまった男の話を聞いた後、女が第二次世界大戦中、ドイツ兵との初めての恋について語り始めました。
丸刈り女性「les femmes tondues」
映画『二十四時間の情事』で、女の戦争の傷となっているエピソード「戦争中のドイツ兵との恋」を通して、「丸刈り女性」という民間粛清を見てみましょう。
当時18歳の女は、ドイツ兵と結ばれることを夢見て、ある日駆け落ちでミュンヘンまで行く約束をします。
その数日後はフランス解放の日で、町中の人々が大喜びしていた時、ドイツ兵と付き合っていた女性達は社会的刑罰として髪を丸刈りにされ、人々の前にさらされていました。
女も丸刈りにされ町中の見世物になり、その後女は両親の意向で約2年間、家の地下室に閉じ込められました。
このエピソードの様に、1940年頃から終戦までレジスタンスやフランス解放軍、そして一般市民たちにより、ドイツ人と性的関係を持ったりナチス軍に協力をしたり、中には生活のためにドイツ関連の工場で働いていた女性も対象となり、罵倒を浴びせられながら、公開「丸刈り」をされました。
それだけに止まらず、女性たちは服を剥ぎ取られたまま町中を歩かせるなどの、身体的な暴力も受けたと記録が残っています。
当然、前に結婚していた仏独夫婦や恋人同士もいましたが、フランス解放後も別れない女性達には「売春婦」というレッテルが貼られ、就職や日常生活にも困難になるほどの差別の中暮らしていたそうで、このような屈辱に耐えたフランス人女性は推定20万人から40万人と言われています。
その傷は現在でも色濃く残っており、元「丸刈り女性」のほとんどがインタビューやドキュメンタリーなどのメディア出演を避けています。
セリフに込められた『二十四時間の情事』のメッセージ
ストーリー展開はシンプルながら、登場人物の感情に任せて放たれたセリフや言葉遊びが多いため、日本語字幕で観ていると比較的「難解な映画」のジャンルに入る『二十四時間の情事』。
ここでは、カタクリが思う「この映画に込められたメッセージが見えてくる」セリフの原文をご紹介します。
戦中のドイツ兵との恋愛を男に話した女が、宿泊先に戻り洗面台の鏡の前で、亡ドイツ兵を思いながらはこう叫びます。
女:Regarde comment je t'ai oublié. Regardes-moi!
見てよ、このあなたを忘れた私を。私を見てよ!原典:『二十四時間の情事』
さらに、女はほぼ同じセリフを、男と別れるシーンで言っています。
女:Je t’oublierai, je t’oublie déjà, regarde comme je t’oublie, regarde-moi !
私はあなたのことを忘れるわ、ほらもう忘れた、見てよ、このあなたを忘れた私を、私を見てよ!原典:『二十四時間の情事』
デュラス風の文章で書くならば、「どんな事も人は忘れていく。だからこそ忘れるのが怖い。なぜなら絶対忘れてしまう事を知っているから。」と、これこそ『二十四時間の情事』の主題だと思います。
1981年のインタビューでデュラスが「記憶」についてこう言っています。
「記憶、それはいつも同じです。一種の感情のようなもので、忘却への恐れをなんとか逃れようという感情のようなものです。どちらにしても、記憶はうまくいきません。ご存知でしょうが、私はいつも忘れる記憶の処置を(文章を書くことによって)しています」
まとめ
わたしの大好きな作家、デュラスが脚本を手がけた、1959年の日仏共同作品映画『二十四時間の情事(原題:Hiroshima mon amour)』。
フランス映画の巨匠、アラン・レネ(Alain Resnais)監督の長編映画デビュー作であり、フランスでは現在も映画館で定期的に上映される名作です。
フランスではタブー視されている「丸刈り女性」について触れており、戦争による心の傷を描き出しています。
登場人物の「朗読しているようなセリフ回し」には、「映画を読書するように、一冊の本を読むように、観客が物語の背景を自由に想像できるようなバランスを目指した」というレネ監督の試みもあり、セリフがとても聴きやすいのが特徴です。
シナリオも出版されていますので、本を見ながらセリフを聴くと大変勉強になります。
最後に、映画『二十四時間の情事』のシナリオを担当することになったデュラスの言葉をご紹介します。
「私は今まで決して戦争について書くことはありませんでした。
とは言っても、ユダヤ人強制収容所については少しだけ触れたことがありますが。
でも、もし『二十四時間の情事 』のシナリオのオファーがなければ、書くことはなかったでしょう。
とはいえ、私は広島について書いたのではありません。
お分かりだと思いますが、広島での膨大な亡くなった方々の数に直面し、一つの愛の死をイメージして書いたものです」
フランス・パリ在住の、気分は二十歳の双子座。
趣味はヨーロッパ圏内を愛犬と散歩することと、カフェテラスでのイケメンウォッチング。
パリ市内の美術館ではルーブル美術館、オルセー美術館とポンピドーセンターがお気に入り!
好きな映画は70代80年代のフレンチ・コメディ。
オススメや好きな作品は詳しいプロフィールで紹介しています。