※当ブログにはプロモーションを含みますが、記事内容は公平さを心がけています。
「フランス映画に興味はあるけれど、何を見ればよいかわからない」という方は多いのではないでしょうか?
そんな方のために、今回は私のお気に入りのフランス映画をご紹介いたします。
ご紹介する映画は、2011年に公開された『最強のふたり』です。
この記事では、私が『最強のふたり』を気に入っている理由と共に、口語フランス語力をアップさせるのに役立つ、見る時のポイントをご紹介します。
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魅力あふれるフランス映画『最強のふたり』
映画の舞台は、フランスのパリ。
事故によって首から下が麻痺してしまい、車いすと完全介護の世話を必要とする大富豪フィリップと、その介護人になるスラム出身の黒人青年ドリスの出会いと友情を描く物語です。
フランスでは、歴代興行収入第3位と大ヒット(参考:。日本でも、日本で公開されたフランス映画の中では『アメリ』を抜いて第1位(2020年現在)となる大ヒット作となりました。(参考:シネマトゥディ)
では、簡単なあらすじと私が気に入っているポイントをご紹介します。
『最強のふたり』のあらすじ
大富豪のフィリップとその秘書は、住み込みの介護人を募集していました。
そこに面接を受けに来たのが、スラム街出身のドリスです。
しかし、ドリスは本当に働く気はなく、「不採用にしてほしい」と言います。
「不採用」通知を複数のところからもらうと受け取れる、失業保険の受給が目当てだったのです。
他の数多くの面接者が募集に応じた志望動機を熱心に語る中、全く働く気がないドリスに興味を持ったフィリップは、ドリスを採用します。
介護の経験も知識もないドリスは、入浴や体のケアなどを行うために、フィリップの豪邸で住み込み介護人として仕事をスタートすることになります。
『最強のふたり』の魅力1. 笑いあり涙ありの心温まるストーリー
障害や貧困といった重いテーマを扱っていますが、決して重くならないのは、映画全体に流れているユーモアの精神があるからでしょう。
大富豪のフィリップと黒人青年のドリスが、時にはかなり辛口のジョークを飛ばしながら、他愛のないおしゃべりをしてお互いに打ち解けていく様子には心が温まります。
ドリスは、フィリップの障害を特別視することなく一人の人間として接していきます。
フィリップの女性関係や娘のしつけにも遠慮なく介入し、ハラハラさせられる場面もありますが、最後には感動が残ります。
しかも、このストーリー、実話を基にしているというのは驚きです。(映画の最後テロップでは、実人物の映像も登場します。)
『最強のふたり』の魅力2.音楽や絵画など芸術の魅力がいっぱい
この映画のもう一つの魅力は音楽や絵画をふんだんに使っているところです。
フィリップが好む音楽は、ビバルディやバッハなどのクラッシックやオペラで、フィリップの住む大豪邸の至る所には絵画が飾られています。
2人でクラッシックやオペラを鑑賞したり、画商で絵を鑑賞したりするシーンもあります。
一方、ドリスの好きな音楽は、クール・アンド・ザ・ギャングやアース・ウィンド・アンド・ファイアーなどのソウル、R&Bやファンク系。
ちなみに、映画の中では、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの曲が見どころで使われています。
音楽や芸術がフィリップとドリスの生い立ちや性格の違いを表現するためだけでなく、2人の関係性や成長のモチーフとしても使われているのは必見です。
『最強のふたり』が口語フランス語学習に役立つ理由
映画は口語表現の学習に格好の教材と言われますが、その中でも、『最強のふたり』は特に口語フランス語を学ぶのに役立つと言えるでしょう。
大富豪フィリップと黒人青年ドリスの使うフランス語の違い
フィリップは、富豪らしく品のあるフランス語を話しているのに対し、ドリスは、スラング混じりのくだけたフランス語を使います。
2人が画商で絵を見ている場面を取り上げてみましょう。
フィリップは白いキャンパスに赤い絵の具で描かれた作品の購入を検討しています。
このシーンで繰り広げられたフィリップとドリスの会話が下記になります。
Drris:Le mec, il a saigné du nez sur fond blanc, et il demande 30,000 euros!
Philippe : Dites-moi, Driss, à votre avis, pouquoi les gens s’intéressent à l’art? …
Driss : J’sais pas, c’est un business.
Phillipe : Non. C’est parce que c’est la seule trace de notre passage sur Terre.
ドリス:(画家の)奴、白地に鼻血をたらしただけで、30,000ユーロも請求してるぜ!
フィリップ:なぁドリス、君の見解では、なぜ人は芸術に関心を持つと思うかい?…
ドリス:わからないね。商売だからじゃん。
フィリップ:いや、そうではないよ。私たちが地球に存在したことを示せる唯一の足跡だからだよ。
引用:映画『最強のふたり』より
同じ絵を見ているのですが、反応の違いに二人の個性がにじみ出ていて、思わずくすっと笑えてしまいます。
フランス式ジョークを学ぶことができる
さらに続くシーンでは、フランス式のジョークが出ているのでご紹介します。
Phillipe : Non. C’est parce que c’est la seule trace de notre passage sur Terre.
引用:映画『最強のふたり』より
の会話の続きです。
フィリップに『芸術は私たちが地球に存在したことを示せる唯一の足跡だからだ』と諭されますが、ドリスは反論します。
Driss : Des conneries ça, Philippe. Moi, pour cinquante euros, je vais chez Casto et je vous la fait la trace de mon passage sur Terre. Je vous mets même du bleu en bonus, si vous voulez.
Philippe : Allez, arrêtez de dire n’importe quoi. Donnez-moi un chocolat !
ドリス:そりゃデタラメだろ、フィリップ。俺だったら、50ユーロもあれば、カスト(Castoramaというフランスの日曜大工店の略語)に行って、俺の地球への足跡を作ってやるよ。なんだったら青色もオマケでつけてあげるさ!
フィリップ:もう、くだらないことを言うのはやめてくれ。(それより、君が食べている)チョコレートをくれ給え。
引用:映画『最強のふたり』より
Philippeの、Donnez-moi un chocolat !からが、ジョークの始まりになります。
Philippe :Donnez-moi un chocolat !
Driss : Non !
Philippe : Donnez-moi un chocolat !
Driss : Pas de bras, pas de chocolat ! C’est une vanne, hein ! Oh, je déconne !
Philippe : Ah, c’est une blague ?
Driss : Ben oui, c’est une blague.
Philippe : Ah, c’est une blague ?
Driss : Elle est bien quand même ?
Philippe : Très bonne, c’est une très bonne blague !
Driss : C’est une vanne connue : « Pas de bras, pas de chocolat ! »
フィリップ:チョコレートをくれ!
ドリス:いやだ。
フィリップ:チョコレートをくれ!
ドリス:腕がない人には、チョコレートはなし。…ジョークだよ。…からかったんだ。
フィリップ:ああ、ジョークか。
ドリス:そりゃそうさ、ジョークだよ。
フィリップ:ああ、ジョークか。
ドリス:いいジョークだろう?
フィリップ:とってもね。とてもおもしろいジョークだ。
ドリス:『腕がない人には、チョコレートはなし!』これは有名なジョークなんだよ。
引用:映画『最強のふたり』より
日本語訳を読んでも、背景知識がないままに聞くと何が面白いのか分からず、驚いてしまいますよね!
日本語字幕では「健常者用」と訳されていましたが、この件は元のブラックジョークを知らないとチンプンカンプンになってしまいかねないシーンです。
実は、«Pas de bras, pas de chocolat.»という表現は、フランスでは誰もが知る有名なブラックジョークのオチで、元のジョークは下記になります。
– Maman, je peux avoir du chocolat ?
– Il y en a dans le placard, va donc te servir,
– Mais Maman, je peux pas, tu sais bien que je n’ai pas de bras…
– Pas de bras, pas de chocolat ! »
母親:食器棚の中にあるから、自分で取ってらっしゃい。
子供:でもお母さん、できないよ。僕には腕がないってちゃんと知っているでしょ・・・。
母親:腕なしには、チョコレートなし!
日本人の感覚からすると、障害者を題材にしたなんとも気分の悪いブラックジョークですが、フランスではよく知られたジョークネタで、このジョークをベースにしたテレビCMなんかもよくあります。
こちらは携帯電話のテレビCMですが、日本で放映されたら炎上されるのではないでしょうか。
下記のYoutubeは、«Pas de bras, pas de chocolat ! »のジョークをベースにした各国のテレビCMを紹介している動画なのですが、冒頭は«Vous connaissez forcément l'expression " Pas de bras, pas de chocolat!" »と始まり、フランス以外の国々でもこの«Pas de bras, pas de chocolat ! »のジョークが浸透している国は多いようです。
*こちらの動画はグロい映像を含みますので、閲覧注意です。
こうした、フランス人にとっての『基礎知識』を垣間見て学ぶことができるのも、フランス映画を見る醍醐味の一つです。
ちなみに、先ほどの会話でドリスが使った«une vanne»は、辞書で調べると「嫌み、悪口」というニュアンスを含んだ«blague»の俗語であるとわかります。
それに対して、フィリップは冗談や悪ふざけを意味する«une blague»を使って答えています。
同様に、ドリスが«conneries(デタラメ)»という単語を使っているのに対し、フィリップは同様の意味を持つ表現として«n’importe quoi»というフレーズを使っています。
このようにドリスは富豪で雇用主であるフィリップに対し、タメ口どころかスラングや俗語を使いながら会話し、障害者に障害者ネタのブラックジョークをふったりします。
周囲はデリカシーに欠けるドリスの言葉遣いにハラハラする一方で、フィリップ本人は障害者として特別扱いしないドリスの『気さくさ』を気に入り、少しずつドリスと信頼関係を築いて行きます。
こうした二人の使うフランス語の違いに注目しながら映画を観るのも、フランス語学習者にとっては興味深い体験になること、間違いなしです。とはいえ、私はスラングの多い早口のフランス語をなかなか聞き取れることができず、自分のフランス語力のなさに愕然としました!
しかし、「ネイティブの話すフランス語を聞き取れるようになるにはまだまだ勉強が必要だ!」というモチベーションアップにもつながりそうです。
移民の多いフランスの空気感を感じられる!
フランスは移民の多い国です。
ドリスはアフリカ系移民として登場していますが、モデルとなった実際の介護人、アブデルはアルジェリア出身の移民です。(参考:Wikipedia『最強のふたり』-実話との相違点)
パリの郊外には、こうした移民系の人が多く暮らしている地区があります。
映画の中では、ドリスが住んでいる低所得者向けの団地群とそこに住む人々の様子が描写されています。
『花の都』と称されるパリが映画の舞台ですが、パリにも『花の都』とは程遠い環境があり、そこで暮らす人が多くいる現実を垣間見ることができます。
本当の実用フランス語を知ることができる
フランス語というと、生粋の白人フランス人が話すフランス語だけがフランス語であると勘違いしがちですが、実はそうではありません。
ドリスのような黒人系移民も、フランスで生まれたネイティブで、彼らが話すフランス語もネイテイブのフランス語です。
ですが、黒人系移民が話すネイテイブフランス語には、白人系フランス人が話すフランス語とは異なる「訛り」や独特のイントネーションが存在します。
フランスのような移民の多い国に住む場合、真の意味で実用フランス語を習得するということは、フランス語学校やフランス語教材で使われている標準的なフランス語を理解できるようになることはもちろんですが、移民系のネイテイブフランス人が話す、フランス語もキチンと聴き取って理解できるようになる必要があります。こういった生の『実用フランス語』は、テキストや参考書を勉強しているだけではなかなか学ぶことができないので、本物の口語フランス語に接するという意味でも、この映画は良いと言えるでしょう。
まとめ
今回の記事では、私のお気に入りのフランス映画『最強のふたり』をご紹介しました。
フランス映画は、口語フランス語力を磨いたり、フランスの文化に触れたりもできる素晴らしいフランス語学習教材です。
「フランス映画を一度見てみたい!」という方は、ぜひ『最強のふたり』(2011)をご覧になってみてください。
アマゾンでは予告編が見れますし、アマゾンプライムの会員の方なら本編も無料で見れます(2020年8月現在)。
・『最強のふたり』で頻繁に使われている口語フランス語・スラング
・『最強のふたり』のエリック・トレダノ、オリビエ・ナカシュ監督が描く2人の自閉症ケア施設で働く男たちの実話!『スペシャルズ!』
慶應義塾大学文学部出身|英語教師・日本語教師
趣味は旅行とカフェでゆっくり過ごすこと。
座右の銘は「どの雲にも銀の裏地がついている」。
どんなに辛い状況でも、その先には明るい光が待っていると思うと「もう一歩先に進もう」と思えます。
フランス語を勉強し始めたきっかけについては、詳しいプロフィールでご紹介しています。