『人間はどこかへ行ってしまうけど、エッフェル塔はいつもそこにいる……』
それぞれが抱える悩み、心に秘める辛い過去… 誰しもが経験する人生の葛藤を、パリの街並みが優しく包み込んでくれます。
エッフェル塔のもとで繰り広げられる、心温まる大人のラブストーリーです。
『新しい靴を買わなくちゃ』のあらすじ
カメラマンのセン(向井理)は、妹のスズメ(桐谷美玲)に連れられパリへ旅行に来ていた。
しかし、パリに住む恋人のカンゴ(綾野剛)に会うことが目的だったスズメは、到着してすぐにセンをセーヌ川沿いに残してタクシーで去ってしまう。
宿泊先のホテルの名前すら分からず途方に暮れているセンのもとを、パリ在住の日本人 アオイ(中山美穂)が通りがかり、落ちていたセンのパスポートを踏み、転んでしまう。
センのパスポートは破れ、アオイの靴は壊れてしまったことをきっかけに連絡先を交換した2人は、その日のディナーを共にする。
酔ったアオイを家まで送り届けたセンだが、ホテルに帰れなくなり、そのままアオイの家に泊まることに。
徐々に打ち解けていく2人は、お互いの悩みや過去を話すようになり、やがて恋に落ちる…。
パリでかけられる恋の魔法
本作品の舞台となったのはパリの中心部。
エッフェル塔や凱旋門、ノートルダム寺院にセーヌ川... 柔らかい太陽の光に照らされたパリの美しい景色と、それを彩るモーツァルトの『メヌエットとトリオ』。
美しいピアノの音色と優しいパリの街並みを舞台に、大人の切ない恋が展開していきます。
「わずか3日間だけの恋」- 限られた時間だからこそ分かち合える思いや悩み。
辛い過去から前に進めずにいたアオイと、仕事で挫折を経験し夢を見失っていたセンが、パリの魔法にかけられ引き寄せられていきます。
きっとパリでなければ出会っていなかった... 年齢も生き方もまるで違う2人のもとに舞い降りた偶然から始まる儚く切ない恋のお話です。
リアリティーを感じられる絶妙な演出
この映画、他の映画にはない独特の雰囲気を持っています。
セリフがところどころアドリブなのか、ぎこちなさや気まずさを感じたり、観ていてとにかくむず痒い!
アオイの持つ変な空気感には、最初からかなり翻弄され、観ていてなんだか恥ずかしくなるほど(笑)。
しかし、それが妙にリアルに見えてきて、ありきたりな映画っぽくない「実在する人間模様」を見ているかのように思えてきます。
さらに、この映画の最大の魅力とも言えるのがカメラワーク。
終始わずかに揺れている映像が少しドキュメンタリーを感じさせ、なんとも心地よく、あたかも自分もその場にいるかような錯覚に陥ります。
そして光の入れ方。
常にはっきりとしない淡い色で映し出されているパリの姿が、とても優しく穏やかで、あたたかみを感じます。
センとアオイの別れのシーンでは、差し込む太陽の光と陰が、残されたアオイの表情を照らしたり、隠したり…
寂しさと同時に、前に進み始めた彼女の心情がうまく表現されています。
音楽はあの坂本龍一が担当しており、美しいピアノの音色と光の融合が、なんとも言えない美しさを演出してくれています。
恋人の願いが叶う橋 ポン・マリー(Pont Marie)
サン・ルイ島とパリの右岸を結ぶ、パリで二番目に歴史が古い橋「ポン・マリー」。
恋人たちが、橋の下をくぐる時に願い事をすると叶うと言われており、別名「恋愛橋」とも呼ばれています。
映画の中でも、センとアオイが手を繋ぎ、「恋人ごっこ」をしながら願い事をするシーンがとても印象的でした。
センとアオイは遊覧船に乗ってポン・マリーのアーチをくぐっていましたが、橋の下には遊歩道も通っているので、歩いてくぐることも可能です。
お洒落でとても人気の観光スポットなので、パリを訪れた際には是非チェックしてみてください。
主演女優 中山美穂とパリ
2002年に作家・ミュージシャンの辻仁成と結婚後に、パリへ移住した中山美穂。
撮影当時は実際にパリに住んでおり、ロケ地としてポン・マリーを提案したのも彼女だったといいます。(離婚後の現在は日本を中心に生活しているそう。)
長年住んでいる設定なのに、ちょっと辿々し過ぎるアオイのフランス語に思わずツッコミを入れたくなりますが、そこはご愛敬。
アオイの少しおっとりとした性格が、そのつたないフランス語からうまく表現されている…… とフォローしておきます。(笑)
実際、パリへ移住後にフランス語の学校に通い、勉強をしたことは明らかにしていますが、家族とは完全に日本語で会話をしていたこともあり、フランス語の上達はなかなか難しいと語っていました。
「もしかして台本がないのでは?」と思ってしまうようなフランス語でのシーンにも注目して観てみてください。
まとめ
この映画では、皆さんの思い描くお洒落で美しい『理想のパリ』の姿を存分に楽しむことができます。
パリの景色と美男美女の恋。
まさに皆さんの求めているものではないでしょうか?(笑)
そして切ないはずなのに、なぜか見終わった後に心がほっこりするのは、やはり光と音がとても上手に使われているからだと思います。
ストーリーだけではなく、演出にも注目して楽しめる、そんな映画になっています。