フランス映画『レ・ミゼラブル(2019年)』のあらすじとすぐに使える口語フランス語フレーズ

フランスに旅行する際に、「スリやひったくりに注意!!」と言う文言や、実際に被害に会った日本人観光客の声を見たり聞いたりしたことはありませんか?

おしゃれでロマンチックなイメージの強いフランス・パリですが、実はかなり「治安の悪い」一面も持ち合わせています。

フランスで盗難事件が相次ぐのは、フランスが抱える移民問題や失業率の高さなど、社会的な問題が根底にあります。

そんな社会問題を"ありのまま"に映し出した話題作として『レ・ミゼラブル(原題:Les Misérables)』(2019年公開)があります。

同名作品に有名なヴィクトル・ユゴー(Victor Hugo)の『レ・ミゼラブル(Les Misérables)』があり、ユゴーの原作からヒントを得て制作されましたが、全く異なるストーリーとなっています。

ユゴーに引けを取らないほど大絶賛された本作は、フランスのアカデミー賞とされる第72回カンヌ国際映画祭(Festival International du Film de Cannes)審査員賞を受賞、そして第45回セザール賞(César du cinéma français)では4つの賞を受賞しています。

この記事ではフランス映画『レ・ミゼラブル(原題:Les Misérables)』のあらすじと映画のセリフの中から、すぐに使える口語フランス語フレーズをご紹介します。

フランスの抱える闇を描く映画『レ・ミゼラブル』のあらすじ

この『レ・ミゼラブル』の主人公は、力持ちの元囚人ジャン・バルジャン(Jean Valjean=ユゴーの『レ・ミゼラブル』の主人公)ではなく、警察官のステファン(Stéphan)です。

なお、ジャン・バルジャンが主人公のミュージカル映画『レ・ミゼラブル』については、こちらで紹介しています。

警察官のステファンはパリの郊外、モンフェルメイル(Montfermeil)のボスケ(Bosquets)地区に異動し、地域の犯罪防止チームへ配属になりました。

彼らの管轄する地域には、いくつかの「島」の様なものが存在し、下記のグループが仕切っています。

  • 「市長」と呼ばれるユニフォーム男のグループ
  • ロマ人のサーカス団
  • ケバブ屋を商うイスラムコミュニティ
  • その他

チームメイトのクリス(Chris)とグクダ(Gwada)は、彼らと一見親しい関係を築いていますが、子供たちが相手にもかかわらず、「度の過ぎた乱暴な方法」で取り締まりを行い、新入りのステファンを驚かせます。

子供たちの中でも特に問題児のイッサ(Issa)という少年は、警察のお世話になりっぱなしで、父親すらも見放すほどです。

映画のキーパーソンとも言えるイッサは、サーカス団からライオンの子供を盗む大胆な問題を起こします。

その出来事によって、「治安の悪い」中での均衡が破られ、「島」同士が一触即発の事態へと発展します。

事態の収束のため「ライオンの子供を見つけ出すこと」を任されたステファンたち警察ですが、イッサを誤ってゴム弾で打ってしまいます。

その様子をドローンで撮影されていたことにより、ステファン達は後始末に奔走することとなるのですが、さらに大人たちのドロドロの利害関係までも絡み合い事態は悪化していきます。

そして映画のラスト10分間は、とにかく「衝撃的」という言葉に尽きます。

映画『レ・ミゼラブル』の見どころはラジ・リ監督の実体験に基づく真実

モンフェルメイユはパリより東に17km離れた場所に位置しています。

ヴィクトル・ユゴーの代表作である『レ・ミゼラブル』の舞台となった場所で、映画が公開された2019年現在では危険な犯罪地域とされ、移民や低所得者が多く住んでいます。

「ユゴーの『レ・ミゼラブル』の登場人物たちの名前が、モンフェルメイユでは訛った発音に変わってしまった」とクリスが皮肉るシーンもあるほど、あまりにも移民が多い地域です。

パリ郊外は「ボンリュー(Banlieue)」と呼ばれ、その多くの地域がモンフェルメイユと同様の移民問題を抱えています。

彼らは「貧困・格差・失業」といったフランス社会が抱える闇を一挙に引き受けているかのように、治安、環境共に悪い地域に暮らしています。

映画『レ・ミゼラブル』は、映画の舞台であるモンフェルメイユで育ち、映画が公開された当時も変わらずにモンフェルメイユに住み続けている"地元民"ラジ・リ(Ladj Ly)監督の実体験に基づいて描かれた「実話」でもあります。

モンフェルメイルで育ったラジ・リ監督は、誰よりも身近に見てきた「現実」を映画の中に描いたのです。

映画冒頭のW杯優勝も現実の話ですし、"盗まれた"ライオンのストーリーも監督の実体験に即しており、インタビューでは監督が20歳の頃に撮影された「盗まれたライオンとのツーショット」を披露しています。

WEBドキュメンタリー製作を主にしていたラジ監督にとって、『レ・ミゼラブル』は初めて手がける長編映画でした。

そんな初の長編映画は、内容の密度の高さから『レ・ミゼラブル』は大変話題になり、下記のようなノミネート・受賞歴があります。

『レ・ミゼラブル』のノミネート・受賞歴
  • 2020年第92回アカデミー賞 国際長編映画賞ノミネート
  • 2020年第77回ゴールデン・グローブ賞 外国語部門ノミネート
  • 2020年第45回セザール賞 最優秀作品賞受賞 (観客賞・新人男優賞・編集賞 も受賞)
  • 2019年第72回カンヌ国際映画祭 審査員賞受賞

ちなみに2019年のカンヌ国際映画祭では、日本でも話題となった鬼才ポン・ジュノ(Bong Joon Ho)監督の『パラサイト 半地下の家族』がパルムドール(Palme d'or)を受賞しました。

社会問題に対する関心の高さを伺うことができます。

映画『レ・ミゼラブル』のセリフから学ぶフランス語フレーズ

映画『レ・ミゼラブル』のセリフは概ね早口で、丁寧さには欠けている上、移民の話す口語フランス語なので聞き取りにくい箇所も多いかもしれません。

しかし日常生活でも使える使用頻度の高い口語フランス語が多くありますので、その中からいくつかをご紹介します。

オススメを聞くのに使える「conseiller」と「recommander」

まずは、4年ぶりに出所してきた男性へ、クリスが唯一、冷静にアドバイスをしていたシーンから一言です。

Je te conseille d’aller travailler.
(仕事はしたほうがいいぞ。)

出典:映画『レ・ミゼラブル』

(仕事はしたほうがいいぞ。)は筆者による意訳ですが、直訳すると「私はあなたに仕事に行くことを勧めます。」となります。

「Conseiller」は「勧める、助言する」という動詞ですが、似たものに「recommander」があります。

どちらも「オススメする」という意味で使えますので、カフェやレストランでオススメのメニューを聞いたりするのに便利です

例文

Qu’est-ce que vous me conseillez/recommandez?
(オススメはなんですか?)

文の末尾に下記のように目的や種類を付記すれば、より詳しいおすすめ情報を聞くことが出来るでしょう。

  • pour l’anniversaire de mariage(結婚記念日)
  • pour mes enfants (子供)
  • comme desserts(デザート)
  • comme spécialité(名物)
  • comme boissons(飲み物)

「conseiller」も「recommander」も似た意味の動詞ですが、「conseiller」の方が「アドバイスや助言」の要素が強く、お医者さんや先生からアドバイスをもらうなどのシーンにより多く使われます。

口語フランス語で頻出!文末によく登場する「ou pas」とは?

もう一つは、映画内の至る所で使われていた「ou pas」です。

日本語での表現としては、「〜なの?どうなの?」という感じでしょうか。

文章の最後につけて使われ、疑問文のように語尾は上げずに発音します。

劇中では、ものすごく早口で強気な女の子が、ドローンで盗撮していた男の子に詰め寄るシーンでくどいほどに連発しています。

C’est clair ou pas?
(分かったの?)

Tu peux venir ou pas?
(来るの?来ないの?)

出典:映画『レ・ミゼラブル』

フランス語学校や参考書ではなかなか見かけない表現ですが、比較的ラフに話せる間柄でよく使われる表現ですので覚えておくとよいでしょう。

例文
Tu as faim ou pas?
(お腹空いてる?どうなの?)

Tu t’en vas ou pas?
(帰るの?帰らないの?)

学校の先生などは、生徒たちに対して次のように聞いたりします。

例文
Alors, vous avez compris ou pas?
(では、みんな分かった?どうなの?)

「ou pas」は一度ハマりだすと、あらゆる語尾に使いたくなる中毒性の高いフレーズです

私自身もフランス滞在時にはネイティブっぽい「こなれ感」を出したいために頻繁に使っていた記憶がありますが、使いすぎるとウザったくなりますので、塩梅を見極めて使うことをお勧めします。

まとめ

映画『レ・ミゼラブル』の中で特に印象的だったシーンは、治安の悪い環境の中でも子供達が無邪気に笑い合い、はしゃぐ様子です。

W杯の優勝に歓喜したり、廃材でそり遊びに興じたり、子供ライオンに興奮し写真を撮ったり、狭いプールで目一杯に楽しむ様子が忘れられません。

パリ郊外では、それぞれの大人たちが「自身の信じるカタチの正義」を振りかざし、そこには妥協や歩み寄りのような、共生の意識は全く感じられません。

映画の最後にはユゴーの『レ・ミゼラブル』から引用された一節が映し出されます。

友よ、よく覚えておけ、悪い草も悪い人間もない。育てる者が悪いだけだ

出典:ヴィクトル・ユゴー「レ・ミゼラブル」

この一節の引用により、権力で人々をコントロールしようとする大人たちの姿と、子供達の生き生きとした表情の対比が一層濃くなり、映画を観終えてしばらくの間、彼ら「バンリュー」に生きる人々へ思いを巡らせることになりました。

「歩み寄ることはできるのか?どのように歩み寄るべきなのか?」

映画では描かれなかったラストシーンのその先を、映画を観ている私たちに託されているように思える作品です。

おしゃれでロマンチックなイメージとはかけ離れたパリ郊外が描写されている映画『レ・ミゼラブル』は、フランスの現実を知るのに最適な一作です。

「パリ症候群」にならないために、フランスに留学する予定がある方は必見の作品と言えるでしょう。

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