※当ブログにはプロモーションを含みますが、記事内容は公平さを心がけています。
こんにちは!フランスのミニシアター系映画が大好きなカタクリです。
タブー視されがちな「身体障害者のセクシュアリティ」を、なんと「コメディ」というジャンルで描いた、2000年のミニシアター系映画のヒット作『ナショナル7(原題:Nationale 7)』をご紹介します。
低予算映画でありながら、シナリオに共感したベルギーを代表する俳優オリヴィエ・グルメ(Olivier Gourmet)が筋ジストロフィー患者のルネ(René)で出演し、『憎しみ(原題:La haine)』の主人公でパリ郊外に住むアラブ系イスラム教徒の青年サイードを演じスターの仲間入りを果たしたサイード・タグマウイ(Saïd Taghmaoui)が、身体障害者のイスラム教徒で同性愛者という難しい役を演じているのも見どころです。
サイード・タグマウイ演じる『憎しみ(La haine)』のあらすじと感想
本作は、世界三大映画祭の一つベルリン映画祭では観客賞をスペイン最大の国際映画祭サンセバスチャン映画祭の観客賞、そしてイギリス最大の映画祭ロンドン映画祭では国際映画批評家連盟賞受賞しました。
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タブーに挑戦した映画『ナショナル7』のあらすじ
地中海に面する人気のヴァカンス地トゥーロン(Toulon)の郊外を通る「ナショナル7(国道7号線)」沿いにある身体障害者施設に、難病の筋ジストロフィーを患う50代の男性ルネが入所していました。
介護士のみならず他の入居者の患者たちとも常にいざこざを起こしているルネは、就任したての仕事熱心なジュリ(Julie)に無理な要求を押し付けます。
そんなある日、糖尿病が悪化したルネは担当医から食事制限を強要されます。
身体が思うように動かない上に、食べ物の制限までされたことを不満に思ったルネはハンストを始めました。
体調を心配したジュリが部屋を訪ねた時、ルネは思い悩んでいた性の苦悩を打ち明け「女を抱いてみたい。娼婦を呼んでほしい」と、涙を流しながらジュリに頼みます。
ミーティングで同僚の介護士にルネの苦悩について話し合いを求めたジュリですが、身体障害者のセクシュアリティはタブーだとして誰も取り合ってくれません。
そんな中、食べ物を一切口にしていなかったルネは、ついに倒れてしまいます。
その状況を見かねたジュリはルネの願いを叶えようと、娼婦達がいる「ナショナル7」へ向かいます。
「ナショナル7」沿いには、長距離運転手を相手に常駐している娼婦達の白いトレーラー止まっていました。
ジュリは車椅子が入るかどうか彼女達の車の入り口をこっそり図りはじめ、そして一人の娼婦のフロレル(Florèle)に出会います。
最初はジュリの申し出を断っていたフロレルですが、熱心なジュリの姿に心を動かされ条件付きで承諾することにしました。
映画『ナショナル7』がより面白くなる3つの裏話
『ナショナル7』の裏話を3つご紹介します。
プチ・カメラ
テレビドラマの作品を主に手がけていたシナピ監督の劇場用長編映画第1作目となる『ナショナル7』は、独仏共同出資のテレビ局「アルテ(Arte)」の「プチ・カメラ・シリーズ」の一つとして制作されました。
このシリーズは、デジタルカメラが普及し一般の人たちが自由に動画を取り始めた2000年に、「デジタルカメラを使って、プロが撮影したらどうなるか」という試みで始ました。
そのため、全編が小型DVデジタルカメラで撮影されているため、まるでドキュメンタリー映画のような効果になっています。
実際にあった出来事
脚本も手がけたジャン=ピエール・シナピ(Jean-Pierre Sinapi)監督は、トゥーロンの郊外の身体障害者施設に働いている妹ジュリの体験談を元に本作を手がけました。
そのため、お話の中の登場人物は実在する人物で、エピソードは実際に起こった事がベースになっています。
コメディ映画へのこだわり
シナピ監督は「身体障害者のセクシュアリティ」を「コメディ映画」にした事に対して、「私がイタリア系フランス人だから」と話しています。
イタリア映画はテーマが重いほど「ユーモア」を加えると語るシナピ監督は、「身体障害者のセクシュアリティをタブー視」するのはおかしいと考え、あえてその部分に触れることにより身体障害者一緒になって笑える映画を作りたかったそうです。
ナショナル7はバカンスの道(Route des vacances)
映画のタイトルになっている「ナショナル7」国道7号線ですが、かつては「バカンスの道」と呼ばれフランス人にとって特別な国道でした。
パリのノートルダム寺院からスタートし、パリ郊外のフォンテンブローを通って南部にくだりサンテ・ティエンヌまたはリヨンを通り、ヴァランス、アヴィニョン、エクサンプロバンス、カンヌ、ニース、そしてイタリア国境近くのマントンまで約996kmのフランスで一番長い国道になります。
「バカンスの道」と言われるようになったのは、1936年にフランスで2週間の夏の有給休暇を定めて以来、バカンス先のメインが南仏になったことにあります。
1955年に当時のナショナル7の人気を表すように、シャンソン歌手のシャルル・トレネ(Charles Trenet)が「Route nationale7」という曲を発表し、大ヒットとなりました 。
バカンス期間にできる交通渋滞は「国道7号線の名物」と言われていました。
高速道路A7ができてから利用者が減少傾向にありましたが、近年、国道7号線の人気がじわじわ復活傾向にあります。
年々高騰する高速道路料金の節約したい人や、昔スタイルの旅行に憧れる人たちが増えてきているのが理由のようです。
そんなフランス人にとってかつては「夢の国道7号線」が、今度は身体障害者の「夢の国道7号線」にという思いで映画のタイトルに選んだところにも監督の「コメディ」に対するこだわりを感じることができます。
まとめ
2000年にヒットしたミニシアター系映画『ナショナル7』は、「身体障害者のセクシュアリティ」というデリケートなテーマを「コメディ」として描かれており、数々のヨーロッパの映画祭で賞賛を受けました。
実際に身体障害者施設に働いているシナピ監督の妹ジュリの体験談を元に、デジタルカメラで撮影されているため、まるでドキュメンタリー映画を見ているようなリアルさがあります。
かつてのフランス人にとっての「夢の国道7号線」を、身体障害者の「夢の国道7号線」にしようとつけられたタイトルにもシナピ監督のこだわりを感じずには要られません。
セリフはとても聞き取りづらいので、フランス語の学習として見る場合は、フランス語字幕をつけて見ることをお勧めします。
本編はハンディキャップのことだけでなく、宗教や同性愛や職業に対する偏見などにも触れており、フランスの社会問題も垣間見ることができるオススメの映画です。
フランス・パリ在住の、気分は二十歳の双子座。
趣味はヨーロッパ圏内を愛犬と散歩することと、カフェテラスでのイケメンウォッチング。
パリ市内の美術館ではルーブル美術館、オルセー美術館とポンピドーセンターがお気に入り!
好きな映画は70代80年代のフレンチ・コメディ。
オススメや好きな作品は詳しいプロフィールで紹介しています。