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絶望の中に希望がある。
2020年前後から日本では「闇バイト」問題が明るみに出てきました。
最初は簡単な「仕事」から始め、次第に強盗や殺人などの犯罪に手を染めてしまう。
その多くの加害者であり被害者は、貧困の問題を抱えて孤独に生きる若者だと言われています。
もちろんこの現象は日本に限ったことではありません。
経済そして学歴の格差が開いているフランスにおいても、大きな社会問題になっているのです。
この記事では、お金欲しさに起こしてしまった犯罪がきっかけで刑務所に入り、「認められる」ために罪を重ねていく青年を描き、フランスで大ヒットした映画『預言者(原題: Un prophète)』をご紹介します!
それでは早速、本作品のあらすじと、カトリック・キリスト教であるコルシカ人とイスラム教徒の関係についてみていきましょう。
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生き抜くために課せられた選択!映画『預言者』のあらすじ
学校をドロップアウトし、学歴もなく読み書きもできない19歳の青年マリク(Malik)。
アルジェリア系フランス人でありイスラム教徒の彼は、幼馴染の不良仲間と悪さをしながらダラダラと日々を過ごしていました。
麻薬のディーラーやひったくり、そして暴力行為を繰り返していたマリクは、ある事件がきっかけで警察に捕まってしまいます。
送り込まれた先は、社会復帰の可能性が低いと思われる囚人を収容する中央刑務所。
入所期間は6年。
もともと気が弱くケンカも強くないマリクは、刑務所で縫製業につきコツコツと地道に働こうとしていました。
中央刑務所を仕切っていたのは、監視員をも買収していたコルシカマフィアのリーダーであるセザール(César)。
そんなある日、新たにアラブ系の男レイエブ(Reyeb)が入所してきます。
レイエブに大きな恨みを持っていたセザールは、マリクにある提案をするのですが…
カトリック・キリスト教のコルシカ人とイスラム教徒の関係
現代フランス映画の巨匠ジャック・オーディアール(Jacques Audiard)にとって5作目に当たる監督作品『預言者』。
第62回カンヌ映画祭では審査員特別グランプリ、セザール賞では作品賞をはじめとする9部門、そして英国アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した世界的ヒット作品です。
コルシカ人とイスラム教徒の関係に触れている本作品は、フランス国内で大きな論争も生みました。
ここでは、日本人にはあまり知られていないその「問題」について、少しだけ触れてみます。
長く根深い問題
カトリック・キリスト教であるコルシカ島と北アフリカ諸国の関係は地理的、歴史的にとても複雑です。
そんな中、8世紀に北アフリカに住むイスラム教徒であったムーア人(Maure)がヨーロッパ地中海地域を襲撃。
当時コルシカ島を統治していたアラゴン王家(Blason d'Aragon)の騎士たちが、彼らからの侵略を食い止めました。
コルシカの国旗はイスラム教徒の生首?!
アラゴン王家の騎士たちは、戦いの勝利の証としてムーア人の生首を持ち帰ったそうです。
それから約10世紀後、当時ジェノヴァ共和国に支配されていたコルシカの独立指導者の一人であったパスカル・パオリ(Pascal Paoli)により、18世紀にコルシカの国旗のモチーフとして切り落としたムーア人の横顔が選ばれました。
2000年に入りさらに加速化
フランスの移民受け入れ政策により、特に北アフリカ諸国からのイスラム教徒の人口が増えコミュノタリズム問題が注目されはじめます。
コルシカも例外ではなく、2000年頃から「コルシカはコルシカ人が守る」という運動が盛んに。
モスケ入り口に切り取られた豚の頭を置く事件や、北アフリカ人観光客と地元のコルシカ人による認識の違いからコルシカ全体に暴動を起こした事件などが勃発。
さらにコルシカとイスラム教徒との間の問題は加速していきました。
映画『預言者』論争
第62回カンヌ映画祭のコンペティション部門に映画『預言者』が出品された際、コルシカの民族主義者や独立派グループCorsica Liberaが、オーディアール監督に対しコルシカとコルシカ人のイメージダウンにつながると発表。
さらに、フランスの刑務所を舞台にコルシカ人とアラブ人が事件を起こしていくストーリー展開は人種差別の何者でもないと主張し、フランス国内で論争に発展していきます。
まとめ
第62回カンヌ映画祭では審査員特別グランプリ、セザール賞では作品賞をはじめとする9部門、そして英国アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した映画『預言者』。
刑務所内を仕切っているセザールに「認められる」ことによって、学歴がなく貧困のため犯罪を繰り返してきた移民の子孫である青年マリクが、自身の可能性を見いだしていく姿が描かれています。
生きた現代フランス語を聴き慣れておくためにも、フランス語学習者におすすめの映画です。
貧困、学力だけでなく人種・宗教問題も絡み合った複雑なストーリー展開。
まさに2023年の今見るべき映画と言えるでしょう。
その他、2000年以降に米国アカデミー国際長編映画賞のフランス代表作として出展された作品の関連記事はこちらをご覧ください。
現在映画界の巨匠ジャック・オーディアール監督。
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コルシカマフィアを仕切っていたセザールを演じたニエル・アレストリュプ(Niels Arestrup)。
マリクの犯罪を手伝うロマ、ジョルディ(Jordi)を演じたレダ・カテブ(Reda Kateb)。
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フランス・パリ在住の、気分は二十歳の双子座。
趣味はヨーロッパ圏内を愛犬と散歩することと、カフェテラスでのイケメンウォッチング。
パリ市内の美術館ではルーブル美術館、オルセー美術館とポンピドーセンターがお気に入り!
好きな映画は70代80年代のフレンチ・コメディ。
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