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コーヒーや紅茶のあるブレイクタイムには、一緒に甘いものを添えたくなります。
フランス滞在時、筆者のお気に入りは、ネスプレッソで作ったアイスコーヒーにポワラーヌ(Poilâne)というブーランジェリー(une Boulangerie=パン屋)で人気のサブレ(un sablé)を添えたひと時でした。
以来、コーヒーとサブレの組み合わせは、フランスを回想する"思い出セット"となりました。
皆さんにもきっと、「あの頃を思い出す」飲み物や食べ物、風景や香りなどあることと思います。
今回の映画は、ハーブティー(une infusion=あるいは煎じ茶)とマドレーヌの"思い出セット"によって、過去の記憶をたぐり寄せていく、ちょっと不思議な物語です。
フランス人アニメーション監督として人気のあるシルヴァン・ショメ(Sylvain Chomet)監督の初の長編実写映画、『ぼくを探しに(原題:Attila Marcel)』のあらすじと見どころをご紹介します。
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フランス映画『ぼくを探しに(原題:Attila Marcel)』のあらすじ
両親を失ったショックで話すことのできない主人公のポール(Paul)はダンススタジオを営む二人の叔母に引き取られ、ピアニストになるべく日々練習に明け暮れる日々でした。
ある日、同じアパルトマンに住むマダム・プルースト(Madame Proust)と出会います。
彼女は、野菜を煎じたお茶とマドレーヌを処方する不思議なティータイム療法を行っており、悩める依頼者たちはその処方によって、自己の中へと入ることができるのです。
忘れていた両親との記憶を呼び起こすために、マダム・プルーストの元へと通うポールでしたが、その記憶はポールの両親に起きた悲しい結末へと近づいて行きます。
一方で、ポール自身が失ってしまった「自分自身を見つけていく」ために必要な、強さや優しさを取り戻していく成長物語でもあります。
個性豊かなキャラクターや、ピアノとウクレレの音色も相まって、心温まるストーリーになっています。
フランス映画『ぼくを探しに(原題:Attila Marcel)』の見どころ
この映画は成り立ちからストーリーの内容、また、登場人物においても作り手の方々のこだわりが凝縮された作品です。
ショメ監督の長編アニメーション作品『ベルヴィル・ランデヴー(Les Triplettes de Belleville)』の劇中歌「アッティラ・マルセル(Attila Marcel)」にインスピレーションを受け、さらにマルセル・プルースト(Marcel Proust)の『失われた時を求めて(A la recherche du temps perdu)』のエッセンスを織り交ぜながら出来上がったのが『ぼくを探して』です。
ストーリーが出来上がる過程にも、監督の持つ作品へ対する思い入れやこだわりを感じます。
また、小道具やインテリアにも随所に繊細なこだわりを感じます。
回想シーンはレトロで人形劇のような可愛らしさがあり、マダム・プルーストの部屋は見事な菜園に飾られ、ポールが叔母姉妹と住む部屋はクラシックなダイニングと幼さの残るポールの部屋との対比により、お互いのキャラクターを映し出しています。
そして、第二の主人公でもあるマダム・プルーストの発する、乱暴な中にも感じる優しさと哀しさの混じったセリフの数々は、スクリーンを通して私たちにも語りかけてきます。
映画『ぼくを探しに』から垣間見られるフランス人のこだわりとは
劇中、特に視線を集めるのは、ポールがピアノを弾く時に必ず用意されている「シューケット(une chouquette)」ではないでしょうか。
シューケットとは、クリームを入れる前のシュークリームの生地にザラメのような大きめの砂糖をまぶした焼き菓子お菓子です。
Une chouquette est une petite pâtisserie soufflée à base de pâte à choux et de sucre.(引用:Wikipedia)
フランスのパン屋では比較的どこでも売っており、お店ごとに異なる生地の味や焼き加減の中から好みの味を見つけるのも楽しい焼き菓子なのですが、日本ではあまり見かけないのが残念です。
最後の一つを子供に食べられたポールが、シューケットを買いに思わず部屋を飛び出すシーンでは、無言ながらもポールのシューケットへのこだわりの強さを感じるシーンでした。
このように彼らは、日常の中で譲ることの出来ないこだわりをたくさん持ち合わせています。
例えば...
- ワインの産地や葡萄の品種、味
- お肉やバゲットの焼き加減
- バカンスの過ごし方
- 行きつけのお店やカフェ
- 好きな音楽やファッションのスタイル
などなど、キリがないほどに沢山あります。
映画『ぼくを探しに』のセリフから感じるフランス人のライフスタイル
映画全体にも溢れていることですが、フランスの方々を見ていると、「こだわり=彼らのライフスタイル」のように感じます。
また、その確立されたスタイルはその方の個性にもなり得ます。
その姿勢がデモ(une manifestation、manifと略語で使われることもある)などへ繋がっているのではないかと思うのです。
映画では、周りの大人たちがポールの将来をピアニストやアコーディオン弾きにしようと言い合う中で、ポールの母は息子に対して次のように歌いかけます。
"Ni l’un, ni l’un ni l’autre. Il fera ce qu’il veux mon gamin. "
(どちらもお断り、我が子は好きなことをすればいい)出典:映画『ぼくを探しに』
母として、息子に好きなことをやらせたいという強い決意を感じました。
そして、マダム・プルーストもまた、周りの意見に左右されない強さを持っていました。
劇中、マダム・プルーストが医者にこう声をかけられます。
"Il n’y a rien qui puisse vous faire changer d’avis?"
(あなたの気持ちを変えるものはなにもないのですか?)出典:映画『ぼくを探しに』
気は変わらないのかと聞かれ、
"J’en ai marre. "
(うんざりなの。)出典:映画『ぼくを探しに』
と、答えていましたが、自身の決めたことを貫く彼女の姿勢に、ポールは母の姿を重ねたのでしょうか。
まとめ
フランスの方がオシャレに見えたり、パリの街に憧れたりしてしまうのは、こだわり(自身のスタイル=mon style)を持った人々がとても生き生きと、楽しそうに暮らしているように見えるからだと思います。
流行や、周りに流されることなく好きなものを選び、突き進む姿勢は見習う部分も多くあるでしょう。
マダム・プルーストがポールへ送った一言、
"Vis ta vie."
(あなたの人生を生きて。)出典:映画『ぼくを探しに』
これは偶然にも、筆者自身がホームステイ先のムシューから贈られた忘れもしない言葉と同じでした。
「ここはフランスだから、あなたはあなたの好きなように暮らしたらいい。」
そう言われたように感じ、ホームステイ先での生活に緊張していた私は、その肩の荷が降りたように感じました。
その時のことを思い出したせいか、この映画を見終えた時には心が少し軽くなったように感じました。
皆さんも温かい気持ちに包まれて、思わずシューケットを探しに行きたくなるはずです。