※当ブログにはプロモーションを含みますが、記事内容は公平さを心がけています。
世界各国のファッション業界や著名人達が一堂に会する大イベント、「パリコレ」をご存知でしょうか。
"ランウェイと呼ばれる花道をモデル達が格好良く歩く映像"が目に浮かびますが、詳しい内容までは知らない方も多いかと思います。
今回ご紹介する映画は、「パリコレ」の常連「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)」に焦点を当てた『ディオールと私(原題:Dior et Moi)』です。
ディオールの新しい挑戦とも言える2012年のパリコレを舞台に、これまでベールに包まれていた作業場の風景や裏方の職人たちに密着しています。
本記事の中では、より深く映画を楽しんでいただける様に、ファッション用語の解説や日常生活に応用できる映画内の言葉なども併せてご紹介します。
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パリコレまでの8週間を追う『ディオールと私』のあらすじ
『ディオールと私』は2012年、デザイナーのラフ・シモンズ(Raf Simons)が「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)」のアーティスティック・ディレクターに就任してから、パリ・コレクションのオートクチュール(haute couture)にて54体のデザインを発表するまでの8週間を追いかけたドキュメンタリー映画です。
映画はディオールの全面協力によって、カメラが初めて本社のアトリエ内へ入り込み、生の現場を映し出しています。
これまで裏方として表に出ることのなかったお針子たちのインタビューも見ることができ、どのメンバーもとてもチャーミングでエネルギーに満ち溢れている様子に一気に虜となりました。
ディオールの創業者であるクリスチャン・ディオール氏の回想録を元にした語りの音声と共に、当時の彼やパリの映像が所々に差し込まれ、ドキュメンタリーといえど緩急つけた映像編集のセンスも見どころです。
どこかオリエンタルな空気を感じるBGMも、ドキュメンタリーというより、ひとつのアート作品の様に映画の良さを高めている気がします。
ラフ・シモンズとは誰か
ラフ・シモンズはベルギー出身のデザイナーで、ディオールに就任するまではプレタポルテ(prêt-à-porter)のメンズラインの中で名が知られているという程度でした。
一見、高級スーツ店の販売員のような爽やかで、少し神経質そうな装いの彼ですが、その「仕事への取り組み方」や「粘り強さ」は、ディオールのデザインを任されるだけのストイックさとセンスを感じます。
ディオール就任前はジルサンダー(Jil Sander)にてデザインを行い、細身のブラックスーツのリバイバルに一役買うなど注目のデザイナーではありましたが、世間的には"モダンでミニマリスト"という評価を持っており、彼のスタイルとは正反対にも思える"伝統ある華やかでフェミニン"なディオールのコレクションをどのように作り上げるのか話題でもありました。
ラフは2015年にディオールを離れ、その後も数々のビッグ・メゾンとの作品を発表し、2021年1月現在、プラダ(PRADA)に加入しメンズコレクションを発表しています。
今後の彼の活躍にもますます期待したいです。
映画をより理解できるファッション用語
ファンションに興味ある方ならよくご存知かもしれませんが、そうでない方のために、映画をより楽しむのに知っておくと良いファッション用語をご紹介します。
「パリコレ」とは
パリコレはパリ・コレクション(Paris collection)の略で、年に2回(春夏コレクション・秋冬コレクション)開催され、世界の高級ブランドが新作のドレスやスーツなどを発表する場です。
約1週間にわたるこの期間はファッション・ウィークとも呼ばれ、この時期のパリには普段以上にお洒落で華やかな「ファッション・ピーポー」の面々が集い、毎日夜遅くまで、街全体が非常に賑わいます。
パリの他にも、ミラノ、ロンドン、ニューヨークでコレクションが開催されており、「4大コレクション」と称されます。
その中でもパリコレは最も古い歴史があり、「クラシックさ・高度な技術・洗練されたデザイン」によって注目度もより高いコレクションなのです。
なお、一言で「パリコレ」と言っても、オートクチュール部門、プレタポルテ部門、そしてメンズ部門の3パターンがあり、それぞれ開催時期も異なります。
ここでは、オートクチュールとプレタポルテの違いについてご紹介します。
オートクチュールとは
映画内の中で密着しているのは、オートクチュール(haute couture)部門です。
オートクチュールとは、高級衣装店を意味し、顧客の為にオリジナルのデザインから縫い上げる「オーダーメイドの一点もの」を意味します。
そして、パリコレのオートクチュールとして認められるには、パリ・クチュール組合(La Chambre Syndicale de la Couture Parisienne、通称サンディカ)という組合によって加盟を許されたメゾン(une maison=この場合「家」ではなく、会社・商店としての意味)のみが、オートクチュールを名乗ることができるという狭き門でもあります。
プレタポルテとは
一方、ラフが元々専門としていたプレタポルテ(prêt-à-porter)は「高級な既成服」を指します。
「prêt-à-porter」は「そのまま着られる」の意味のままに、より大衆向けに作られ、各々のブランドにデザインされた型紙を元に、切って縫われた大量生産品のことです。
Diorのオートクチュールもプレタポルテも高級なことには変わりはないので、庶民の私としてはプレタポルテと言えども手が出ないのが正直なところですが、そもそもの作品、商品の成り立ちが異なっています。
プレタポルテ出身で畑違いとも言えるラフが、ディオールのアーティスティック・ディレクターに就任し、オートクチュールのコレクションを任された事は2012年当時、ファッション業界全体を驚かすこととなったのにも頷けます。
その他のファッション用語
その他、覚えておくと良いファッション用語をご紹介します。
un atelier | アトリエ:作業場、小工場、ワークショップ |
un croquis | スケッチ:デザインの草案や簡単な説明 |
un couturier | クチュリエ:ファッションデザイナー |
une couturière | クチュリエール:お針子、洋裁師 |
un mannequin | マネキン:ファッションモデルのこと |
日本で「マネキン」と呼ぶ「人体模型」の語源は、フランス語の「ファッションモデル」のun mannequin(マネカン)です。
ちなみに、「un modèle」は、フランス語では「ファッションモデル」ではなく、携帯や車の最新型(un nouveau modèle )などに使用する意味になります。
フランス語で「ファッションモデル」は「un mannequin」なので、間違えないように注意しましょう。
また、フランス語では職業によって男性形と女性形が変化することが多いです(acteur/actriceなど)が、ファッションモデルの場合、「un mannequin」で男性・女性両方を指します。
女性のファッションモデルは「une mannequine」になりそうなイメージがありますが、「une mannequine」はほとんど使用されません。
映画のセリフから学ぶフランス語表現
映画の中では、ラフのインタビューはもちろんのこと、彼の右腕のピーター・ミュリエ(Pieter Mulire)やドレス、スーツ部門の職長たち、コレクションやディオールに関わる様々な人々のインタビューを合間に挟みながら映画は進行されていきます。
映画の中で最も使われていた表現はこちらです。
c’est plus/très important.
(とても大切だ、重要だ。)出典:映画『ディオールと私』
主語を変えたり、pour +名詞(〜のために)とすることでバリエーション広く使える表現です。
例えば、
C’est très important pour moi d’apprendre le français tous les jour.
(毎日フランス語を学ぶことは私にとってとても重要です。)
のように仏検の面接などでも使いやすい表現です。
ちなみにラフもピーターも第二外国語としてフランス語を使用しています。
ベルギー出身のピーターのフランス語はtrès、trop、beaucoupを重ねて使っていたりします。
フランス語初心者には「あるある」な表現も多く可愛らしい印象のフランス語です。
簡単なフレーズの会話の中には「キャラクターや特徴」を表現するのに重要な単語も多くありましたのでご紹介しましょう。
Il est très visuel.
(彼はとても視覚型だ。)
出典:映画『ディオールと私』
視覚を重視していて、書いたり聞いたりするよりも、見たものからの情報を処理し判断するのが得意な人間のことだそうです。
Il est très organisé.
(彼はとても合理的だ。)出典:映画『ディオールと私』
どちらも「とても」と表現しているところに、ラフの常人以上のカリスマ性を感じました。
また、「深みが出る」という「plus profond」という表現も個人的にはお気に入りです。
フランス語を勉強しているのだから、フランス人のフランス語から学ぼうとするのが自然ではあります。
しかしながら、「フランス語を母国語としない方の話し方」から学べる表現やフレーズは意外に多くあります。
ピーターは修飾語を豊富に使うことで、単純なフレーズにも深みを持たせていました。
まさにplus profondです。
この他にも、お針子たちのインタビューや会話にはディオールへの愛と情熱を感じる言葉で溢れており、一言一言を紹介したいほど印象的な想いの数々が登場しますので、是非映画をご覧いただきたく思います。
まとめ
『ディオールと私』は1時間半という比較的観やすい時間の中に、ラフや職人達の仕事に対する姿勢や熱意、コレクションへの不安や緊張がたっぷりと詰まっています。
ドキュメンタリーというと淡々と仕事場が映し出されるような内容かとも思いましたが、そうではありません。
コレクション当日のランウェイだけでなく、そこまでの道のりにこそがロマンチックで、ドラマが展開されております。
ファッション業界の方でなくとも、きっと共感できるシーンが沢山あることでしょう。
私の友人にオペラ歌手としてパリで暮らす女の子がいますが、なぜ活動先にパリを選んだのか問いたことがあります。
彼女ははっきりとした口調で「ディオールがあるから。」と即答しました。
その答えを聞いた時は驚きました。
確かにフランスには多くの「高級ブランド」が存在し、それぞれの店舗ごとに鮮やかに飾られたショーウインドウは、見ているだけでも心動かされる魅力に溢れています。
そして、心動かされる理由にはそのブランドの商品の美しさもさることながら、ブランドごとが持つ特別な「物語」を感じるからなのだと言うことを、『ディオールと私』を観て実感しました。
きっと、その友人も特別な「物語」を、ディオール越しに見つけたのでしょう。
『ディオールと私』とは、ラフ・シモンズとディオールの関係だけでなく、ディオールに携わる人々、そして映画を見た人々、様々な「私」に向けた「物語」だと思います。
ファンションに興味がある方は必見の映画ですし、そうでない方にもおすすめの一作です。
なお、シャネルを題材にした映画として、『アメリ』の主演女優オドレイ・トトゥがシャネルを演じる『ココ・アヴァン・シャネル』がありますので興味がある方は併せてご覧になってみてください。
フランス映画『ココ・アヴァン・シャネル』のあらすじとココの名台詞